生成AI活用2026.09.01

LINE WORKSからTeamsへ。移行で本当に迷うのは、トーク履歴だ

グループウェアの入れ替えは、機能比較に時間を取られがちだ。しかし実際に手が止まるのは、機能ではなかった。過去のトーク履歴をどうするか——ここで全員が黙る。

移行ツールがある組み合わせと、ない組み合わせがある

チャットツールの乗り換えには、公式の移行ツールが用意されている組み合わせがある。SlackからTeamsへはMicrosoftが移行ツールを提供しているし、TeamsからGoogle Chatへは、2026年にGoogleが公式のデータインポート機能を正式提供として出した。チャネルのメッセージもグループチャットも、追加費用なしで運べる。

ところが、LINE WORKSからTeamsへ、という組み合わせには、それが見当たらない。移行の需要はあるはずなのに、公式のツールがない。第三者製のツールも、主要な組み合わせには存在するが、ここは手薄だ。

結論として、手作業でやるしかない。そして手作業の中身は、ほぼトーク履歴に集約される。アカウントを作り、組織構造を移し、チャネルを設計するところまでは迷わない。問題はその先だ。数年分たまったトークの中には、取引先とのやり取りの経緯、決定に至った理由、まだ終わっていない案件の途中経過が入っている。これらは自動では移らない。

検索しても事情は変わらない。出てくるのは「機種変更したときの引き継ぎ方法」ばかりで、組織としてまるごと乗り換える話が見つからない。選択肢は二つしかない。捨てるか、運ぶか。

手作業しかないなら、AIに任せればいい

私たちは運ぶことにした。ただし、人がコピーと貼り付けを繰り返すわけではない。使ったのは、ブラウザを操作できる生成AI——Claude in Chrome だ。

やっていることは単純で、旧環境のトーク画面を開いてAIに読ませ、マークダウンに整え、見出しや発言者が読めるように体裁を直させて、新環境のノートに貼る。これを1グループずつ繰り返した。数十グループを、この方法で移した。

専用ツールは作っていない。APIも叩いていない。人間がやれば数日かかる単純作業を、画面を触れるAIに肩代わりさせただけだ。移行プロジェクトで一番厄介なのは、たいていこういう「仕組み化するほどではないが、量が多い」作業である。公式ツールのない組み合わせは、これまでその面倒さが移行そのものの足かせになっていた。ここに手が届くようになった意味は大きい。

ただし、この方法には避けて通れない論点がひとつある。

個人情報を「AIに渡す」とは、どういうことか

トーク履歴には、社員や取引先の名前が入っている。連絡先が書かれていることもある。それをAIに読ませていいのか。移行を進める前に、ここを整理しておく必要があった。論点は一つに絞られる。それは、個人情報の「第三者提供」にあたるのかということだ。

身近な例で考えるとわかりやすい。表計算サービスに顧客名簿を入力することを、第三者提供とは呼ばない。経理も人事も、当たり前のようにそうしている。一方で、制作会社に顧客リストを渡すのは第三者提供になる。だから契約を結び、取り扱いを取り決める。

この二つは何が違うのか。データがどこかのサーバーに保存される点は、実は同じだ。分かれ目は、受け取った側が、そのデータを自分の目的で使うかどうかにある。表計算サービスは、入力された名簿を自社のために利用しない。使い道は預けた側が決めた範囲に限られる。制作会社は違う。相手がどう使うかを、こちらは決められない。だから提供になる。

AIも、同じ物差しで測ればいい。ただし、条件がつく。

生成AIには、入力した内容をモデルの改善——つまり事業者自身の目的——に使う設定が存在する。ここがオンのままなら、先ほどの前提が崩れる。表計算サービスと同じだと言うためには、事業者がそのデータを自分の目的で使わない状態になっていることが要る。

裏を返せば、その状態さえ作れば、判断の枠組みは表計算サービスと変わらない。個人向けプランには学習利用のオン・オフを切り替える設定があり、法人向けの契約では、そもそも顧客データを学習に使わないことが取り決められているのが一般的だ。設定を確認する、あるいは適切な契約形態を選ぶ。これは気休めの作業ではなく、判断の前提条件そのものである。

私たちが実務で押さえたのは、この前提に加えて三点だ。運ぶ範囲を、業務上必要なものに絞ること。すでに終わった雑談まで運ぶ理由はない。貼り付け先のアクセス権を絞ること。せっかく整理しても、誰でも見られる場所に置いては元も子もない。そして、口座情報など特に慎重な扱いが要る内容が混ざっていないかを確認すること。移行は、棚卸しの機会でもある。

ここまで書いたのは、私たちが自社の移行を進めるにあたって整理した考え方であって、法的な結論ではない。実際の判断は、扱うデータの性質や利用目的によって変わる。最終的な判断は、各社の法務や専門家に確認していただきたい。

私たちは、AIを使うかどうかを議論する前に、どう位置づけるかを決めてから使っています。手を動かす前の整理も、手を動かすことのうちだと考えているからです。

株式会社ゴセンフ

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